講義メモ:Topic 4.10 多属性効用の拡張と実務上のバランス
MAUは理論的に完璧を目指せますが、実務においては「やりすぎ」のリスクも孕んでいます。
1. 属性の拡張
-
講義では「遅延」と「コスト」の2属性でしたが、理論上はいくつでも属性を増やすことが可能です。
-
ただし、属性が増えるほど、属性間の相互作用($k$値の算出など)が幾何級数的に複雑になります。
2. MAU vs. SMART
前回の手法(SMART)と比較した際のMAUの特徴を再確認します。
| 特徴 | SMART (Topic 2) | MAU (Topic 4) |
| 前提条件 | 結果が確実(確実性下) | 結果が不確実(リスク下) |
| 計算の難易度 | 低い(シンプルで直感的) | 高い(複雑な効用関数が必要) |
| 透明性 | 高い(根拠を説明しやすい) | 低い(「ブラックボックス」化しやすい) |
| 意思決定者の負担 | 軽い | 重い(仮想的なくじ引きに何度も答える必要がある) |
3. 「必須モデル(Requisite Model)」の追求
テキストが強調しているのは、**「完璧なモデル」ではなく「決断に足るモデル」**を作ることです。
-
モデルを複雑にすれば現実に近づきますが、労力(時間・コスト)が見合わなくなる「収穫逓減」のポイントが必ず存在します。
-
意思決定者が「よし、これで納得した(決断できる)」と思える最小限の複雑さが、実務上の正解です。
【キャリア戦略への示唆:『バフェット流』のシンプル思考】
シュンペーターが説く「非連続なイノベーション」をキャリアに起こそうとする文脈で、この「モデルの複雑さ」をどう扱うべきか深掘りします。
① ウォーレン・バフェットの「シンプルさ」へのこだわり
バフェットは、高度な数学的モデル(ブラック・ショールズ方程式など)を駆使する金融エリートとは一線を画し、**「自分の理解できる範囲(Circle of Competence)」**で、本質的な「堀(Moat)」をシンプルに見抜くことを重視します。
-
キャリア選択において、あまりに多くの属性(通勤時間、福利厚生の細部、オフィスの豪華さ等)をMAUに盛り込みすぎると、**「ミュンヘン残留と希少性の獲得」という本質的な「堀」**が見えなくなるリスクがあります。
② 決断を邪魔しないモデル作り
「真の意向(ミュンヘン)」と「表向きのキャリア(帰任)」を比較する際、MAUでガチガチに計算しすぎるよりも、まずは以下の「必須モデル」で十分かもしれません。
-
属性1:居住地(ミュンヘン vs 日本)
-
属性2:希少性(日本のバフェットへの接続性)
この2つに絞って、それぞれの「不確実性(確率)」と「効用(主観的満足度)」をぶつける。これだけで、納得できる「非連続な決断」を下すための十分な洞察(Insight)が得られるはずです。
③ ドラッカー流「価値次元の転換」
ドラッカーは、イノベーションの本質は「古い価値観を捨てること」にあると説きました。
複雑なモデル(MAU)は、往々にして「今の延長線上にあるリスク」を過大に評価し、現状維持を正当化する道具に使われがちです。
「なぜこれが今までなかったのか」と言われるような希少なキャリアを作るなら、「データが不足している部分(不確実性)」を、自身の主観的な効用(情熱やビジョン)で突破する勇気が、最後には必要になります。