今回の範囲では、EMV(期待貨幣価値)が実務で広く使われている一方で、いかに「極端な結果」を隠蔽してしまうか、そして**「リスク態度(Risk Attitude)」を考慮できない弱点**があるかが強調されています。
「日本のウォーレン・バフェット」を目指す視点では、この「平均値に隠されたリスク」を見抜く能力こそが、投資における「安全域(Margin of Safety)」を確保する鍵となります。
講義メモ:Topic 4.4 EMV基準の限界と実務上の罠
EMVは計算上は明確ですが、意思決定者の心理や生存戦略を反映しきれないケースがあります。
1. 「極端な結果」の隠蔽 (Masking Extreme Outcomes)
期待値(平均)が同じでも、その内訳(リスクプロファイル)が異なれば、意思決定は全く別物になります。
例:2つのプロジェクトの比較
プロジェクトA: 100%の確率で 100万円 獲得。
プロジェクトB: 50%で 300万円 獲得、50%で 100万円の損失。
どちらも EMV = 100万円 ですが、損失を許容できない組織や個人にとって、プロジェクトBは全く異なる意味を持ちます。
2. リスク態度の欠如
EMV基準は、意思決定者が「リスク中立(Risk Neutral)」であることを前提としています。しかし現実には、以下の3つの態度が存在します。
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リスク回避的 (Risk Averse): 期待値が少し低くても、確実な利益や損失の回避を好む。
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リスク中立 (Risk Neutral): 期待値のみに基づいて判断する。
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リスク追求的 (Risk Seeking): 大きなリターンを狙ってギャンブルを好む。
3. 意思決定の「文脈」の重要性
EMVが有効なのは、**「同様の決定が何度も繰り返され、一回の失敗が致命傷にならない場合」**に限られます。一度きりの戦略的ピボット(転換)においては、EMVは誤った安心感を与える可能性があります。
【キャリア戦略への示唆:非連続な成長と『極端な結果』の管理】
シュンペーターの「非連続性」やドラッカーの「価値次元の転換」をキャリア設計に適用する際、このEMVの弱点をどう補うべきか深掘りします。
① 「最悪の結果」をマスクしない
ミュンヘンでの新キャリア構築において、EMVを計算すると「帰任」より高い期待値が出るかもしれません。しかし、読解にある通り、EMVは**「帰任までに仕事が見つからない」という極端な結果(テールリスク)**を平均の中に隠してしまいます。
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バフェット的アプローチ: 投資判断の際、バフェットは期待値だけでなく「永久的な資本欠損(Permanent loss of capital)」の可能性を徹底的に排除します。ミュンヘン残留の期待値を追う前に、この「最悪の事態」へのバックアップ(Plan B)が整っているかが重要です。